高校生がつづる 森・川・海 聞き書きの本棚

その人の職業から人生を浮かび上がらせる

「高度経済成長以後、林業も機械化し、すっかり様変わりした。そんな時代だからこそ、森とかかわる伝統的な知恵や技術、文化を掘り起こすことが今、大切なのではないか」
今から20年近く前、ある林野庁の職員は、そんな思いを抱き、作家の塩野米松先生を訪ねました。塩野先生は、たくさんの職人を聞き書きし、本にまとめていました。代表作は『木のいのち 木のこころ』という、法隆寺の宮大工棟梁、西岡常一氏の「聞き書き」です。
「全国から毎年、森の名手・名人を選んで、表彰したい。その名人を選ぶ作業を手伝ってもらえないでしょうか」と、林野庁の職員は切り出しました。
塩野先生は言いました。
「表彰するのはいいけれども、それだけではその人の技術や知恵を、後世に伝えることはできない。全国から高校生を集めて、名人の聞き書きをしよう。聞き書きのやり方は、私が指導するから」
早速、林野庁の職員は、文部科学省に協力を依頼し、第1回「森の聞き書き甲子園」を2002年(平成14年)に開催しました。以来ずっと、塩野先生には、甲子園に参加する高校生を指導いただいています。

聞き書きで大切なことは「その人の職業から人生を浮かび上がらせることだ」と、塩野先生は言います。その人がもつ具体的な技術を、丁寧に掘り下げていくことによって、たとえば宮大工という、その人の生き方が見えてくる。さらに、その人が語った言葉を上手にまとめることで、その人の人柄や生まれ育った背景、さらにはその人生の裏側までも読み取れるような作品に仕上がるのです。
『森をつくる椎茸』という作品は、塩野先生の教えを忠実に守った、高校生の力作のひとつです。

 

森をつくる椎茸

名人
黒木工(神奈川県相模原市)
聞き手
鈴木美愉(栃木県立宇都宮白楊高等学校2年)

自然の神秘

ある時、山に行ってみると、椎茸の胞子が一面に飛んで山の中が霧がかったようになってね。今までの人生で2、3回ぐらいしか見たことがないけど、それはそれは見事で、めったに味わえない喜びでしたね。そして春先の最盛期の山、どの木からも椎茸がいっぱい発生している、そういう姿を見ると、やってきた生きがいってのを感じるね。

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