高校生がつづる 森・川・海 聞き書きの本棚

伝統を受け継いでいくとは

今回ご紹介するのは、新潟県柏崎市の名人を取材した高校生の聞き書き作品です。

柏崎市は新潟県のほぼ中央に位置する地方都市で、日本海に面した市街地を少し離れると豊かな田園風景が広がるなど、海、山、川の恵みを生かす生活文化が今も残っています。特に山間部の小さな集落では雪国ならではの暮らしの知恵や伝統食、ものづくりの技術などが伝えられています。

また、柏崎市は2007年の新潟県中越沖地震で大きな被害を受けた地域でもあります。当時復興支援にあたった若者を中心に「NPO法人aisa」(あいさ)が設立され、現在も人々の暮らしに寄り添う持続的なまちづくり活動が精力的に行われています。取材する名人の推薦や高校生の受け入れは、「aisa」のスタッフの皆さんに協力いただきました。

そんな柏崎市を訪れた群馬県在住の高校生・橋場さんは、伝統の保護について興味があり、聞き書き甲子園に参加しました。取材したのは菅笠づくりの名人です。菅笠は雨、雪に強く、通気性も良いため、農作業や雪降ろしなど、季節を問わず用いられてきました。今はもう作り手はほとんどいないが、菅笠には生活の知恵が込められていて、「菅笠を作るのが好きだから続けている」と名人は語ります。名人の菅笠に対する想いから、橋場さんは伝統を守ることだけを意識し過ぎると、「かたち」だけを継承することにこだわってしまうかもしれない。「かたち」だけにこだわると、逆に伝統を廃れさせてしまうのかもしれないと気づかされたそうです。伝統を受け継いでいくとはどういうことか、みなさんも一緒に考えてみませんか。

天才を超える工夫

名人
中西ミツエ(新潟県柏崎市)
聞き手
橋場そよか(ぐんま国際アカデミー高等部2年)

菅笠に込められた知恵

新潟は雪国でしょ。雪国の人は雪降ろしに屋根に上がるときには必ず笠をかぶらせるの。ヘルメットは、つばが小さいでしょ。万が一、上から落ちた場合、笠はね、顔と雪が落ちてくる間に空気の間ができるのね。顔に対しての空気の場所が。そうすると命が助かる。だからね、必ず冬はね、「笠かぶって上がれ」って言われたもん。みんな意味があってね。昔の知恵って大したもんですね。

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