山の幸を保存し調理する知恵
愛知県豊根村は、「奥三河」と呼ばれる東三河地方北部に位置し、長野県、静岡県と接しています。村の人口は、県内では最も少なく1000人余り。面積の9割以上を森林が占めています。良質なスギ・ヒノキのほか、山菜やキノコなど、山の恵みが暮らしを支えてきました。また、村には様々な民俗芸能が伝承されており、中でも夜を徹してさまざまな舞が行われる「花祭り」は人気で、毎年多くの観光客で賑わいます。高校生が取材した名人は、そんな奥三河で長年、民宿「花香」を営んできました。
「花香」の自慢は、四季折々の山菜や木の実、きのこ、あるいは鹿やイノシシ、川魚などの料理。冬は雪に閉ざされるこの村では、さまざまな山の幸を干し、あるいは塩漬けや味噌漬け、粕漬け等にして長期間、常温で保存しました。山村ならではの食文化の知恵です。名人はその方法を「昔から田舎に住んでいるもんで、自然に教わったんだね。もう気が付いたときには身についていた」と語ります。
聞き書きした安東さんは、名人の民宿に泊まらせていただき、たくさんの料理もご馳走になりました。インスタント食品やレトルト食品、あるいはファーストフードが当たり前の高校生にとっても、その美味しさは格別だったようです。
「食事の時間の名人との会話は一番の思い出です。作品を読み返すたびに会話を思い出す」という安東さん。今度は春先にお邪魔して、山菜の採取から保存・調理まで、体験しながら教えてもらえるといいですね。
生まれ変わっても花香をやってみたい
- 名人
- 今泉なを子(愛知県北設楽郡豊根村)
- 聞き手
- 安東里紗(東京都 成城学園高等学校2年)
四季に合わせて
季節ごとに山菜は変わる。春が一番いいね。春は新芽がたくさん出る。春一番に出るのはこごみ。夏にはみょうがの芽がたくさん出る。みょうが料理なんかあるよ。
秋の山菜っていうのはないな。秋は新芽が出ないもんで、実がなったもんが落ちる。だから秋は山菜っていうより、実だね。とちの実や胡桃、ナッツだとか。それを今度は利用してご飯を作る。とちの実はとち餅にする。胡桃は五平餅のたれにするとかね。
冬は雪だから山菜は採れない。そのために保存しておく。それで冬は保存食みたいなかたちで食べる。塩抜きをして食べたり、ナスも夏にいっぱい採れるから漬けてといて冬に食べる。