高校生がつづる 森・川・海 聞き書きの本棚

微力ではあるけれども、無力ではない

高校では新聞部に所属し、顧問の先生の紹介で「聞き書き甲子園」に参加したという髙垣さん。山口県下関市豊北町のイカ釣り漁の名人を聞き書きしました。

近年、イカが釣れる数が減り、特に今年は不漁とのこと。その理由について尋ねると、通常は26~7度である夏場の海水温が、今年は30度近くまで上がり、イカの稚魚が死滅したこと等が原因ではないか、とのこと。そして「イカは素手で触ったらダメ。人間の1度の差は、魚にとっては10度ぐらいになるから。温度に敏感な生き物なんよ」と、その生態や漁の仕方まで詳しく話を聞きました。

その一方で、名人は魚食普及に取り組み、また近くの小学校では「海の終業式」を20年間、手伝ってきたとのこと。磯端にサザエを蒔き、終業式が終わると子どもたちはサザエ拾いを体験し、保護者と一緒につぼ焼きで食べる、そんなユニークな終業式です。現在は、恵まれない子供たちを招いて、海で一日遊ばせる活動もしています。さらに10年ほど前から漁業の研修生を受け入れ、後継者育成にも取り組んでいます。

そんな名人に、なぜ、熱心に取り組むのかと尋ねると、「見たり聞いたりすると、何か自分にできることはないかと考える」との答えが返ってきました。

髙垣さんは、名人の聞き書きを通して、何より「現場に立つことの大切さ」、「一つの問題は、その一つだけで存在しているのではない」ということ、そして「主体的に動くことの大切さ」を学びました。「微力ではあるけれども、無力ではない」。名人と出会って改めて気づいた、その言葉を胸に、その後、髙垣さんは地元の広島で被爆体験を取材するなど、社会のさまざまな課題に取り組んでいます。

漁師は、想像の世界で働いちょる

名人
春永克巳(山口県下関市)
聞き手
髙垣慶太(広島県 崇徳高等学校2年)

漁師を育ててみるか

ここ10年ぐらい漁師の担い手を育てよる。それは、担い手もおらん、後継者もおらんって漁業が衰退すれば、一本釣りみたいな日本の伝統的な漁法も廃れるから。(中略)朝が早い、厳しい、辛い。ほんならやめて帰れっちゅうんよ。続かんけ。でも、今までそういう人は一人もおらんかった。(中略)私たちもその子たちの人生を預かっちょるから、いい加減なことはできん。漁だけじゃなくて、困ったときは悩み聞いたり、家にご飯食べ来いっちゅうたり。この子たちが路頭に迷わんように、ちゃんと漁で食っていけるようにしてあげんといかんのよ。

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