高校生がつづる 森・川・海 聞き書きの本棚

名人の優しさに出会う旅へ

夏の日差しがまぶしい毎日です。皆さん、お元気ですか。今年もまた、聞き書き甲子園に、あの熱い瞬間がやってきました。卒業生ならば、皆さん、わかりますよね。全国の高校生が一同に集まる「聞き書き研修」の開催です。「聞き書き研修」は、毎年8月半ばに3泊4日、東京で行います。参加する高校生は、国公立や私立の普通科はもちろん、農業や福祉などの専門学科に通っている生徒もいます。あるいは通信制や定時制、フリースクールに通う仲間もいます。さまざまな同世代との出会いは刺激的。みんな、すぐに仲良くなって話が尽きません。そして研修では、聞き書き実習を通して、聞き書きの手法を学び、本番の名人の聞き書きに備えるのです。

本番の聞き書き取材は、高校生と名人がそれぞれ一対一で行います。名人のご自宅の場所を聞いて、電車やバスを乗り継ぎ、自力で名人の家を訪ねなければなりません。中には、一人で旅に出るのは初めて、という高校生もいます。いったい名人はどんな人なのか。考えれば考えるほど、心配も募ります。でも、これまで名人に会えず、取材できなかったという高校生は一人もいません。名人もまた、高校生が来ることをずっと気にかけながら、心待ちにしているのです。

そんな、初めての名人との出会いをそのまま作品にした高校生がいます。作品は、高校生本人の「おじゃまします」という挨拶から始まり、名人の「気ぃ付けて帰りなっせ」という優しい言葉で終わります。高校生は、この日、一日かけて名人に山を案内してもらい、お世話になりました。

「日本にこんなにも美しい場所があったのかと驚かされました。また何より、手厚くもてなしてくださった名人家族の優しさは、今までに出会ったことのないほどのもので、人々の関係が希薄になりつつあるこれからの時代に、ぜひとも伝え残したいと感じました」

それで自分なりに作品の構成を工夫し、まとめたのです。この作品を読むと、高校生と名人が一緒に歩いた山を、読者である私たちも、まるでそこにいるかのように体験できます。

さあ、皆さん、この夏の暑さを少し忘れて、秋の名人の山へ出かけましょう。

山が好き -名人 高尾義明さん-

名人
高尾義明(熊本県八代市)
聞き手
三川花織(八代白百合学園高等学校2年)

おじゃまします

さ、どうぞ。上がってください。どうぞ。

大丈夫かい。寒くないかい。下とは5℃くらいちがうもんねえ。夏は涼しいどこっじゃなか。寒い。空気よかろ。いいとこだもんね、ここは。

自動車関係の会社に勤めたあと、林業に就いたったい。会社には8年ぐらいおったなぁ。インストラクターもしよるよ。インストラクターって、おれ意味わかんないんだけどね。なかなか難しいなぁ。山への勧誘かねえ。やっぱし山のことをね、知ってもらいたい。山のよさ。山をいちんちじゅうまわってね。大変だけどねえ、なかなか楽しかよ。木の種類とか、いろんなこと教えてね。そして山のよかとこばいっぱい写真撮っとたい。

 

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